大学キャリア教育 事例
【FD・SD事例】2026年 変化する新卒採用と大学教職員に求められる就活支援の基準とは
就職活動の早期化や採用手法の多様化が進む中、大学における就職支援のあり方も大きな転換期を迎えています。
「いつから、どのような支援を始めるべきか」
「学生を支えるために、大学としてどのような情報や関わりが必要なのか」
こうした問いに対して、キャリアセンター職員だけでなく、学部教員も含めた大学全体での目線合わせ(FD・SD)の重要性が、これまで以上に高まっています。
本記事では、変化する就職活動の実態を整理したうえで、それに対応するために大学・学部が一体となって取り組むべき支援のポイントについて、具体的な事例を交えながら解説します。
変化する就活の実態とは?
昨今の就職活動において、学生を取り巻く環境は大きく変化しています。こうした中で、キャリア支援に関わる教職員が共通して押さえておきたい主なポイントは、「就職活動の早期化」「評価ポイントの変化」「就職活動ツールの多様化」の3点です。
1. 早期化する就活スケジュール

かつて、2015年卒の就職活動においては、大学3年生の3月終了時点での内定率は18.5%程度でした。しかし、10年後の2025年卒では、同時点での内定保有率が58.1%と、約6割に達しています。
またインターンシップに関しては、現在、大学3年生の5月頃からインターンシップ説明会が始まるのが一般的です。しかし実態はさらに前倒しが進んでおり、3年生になる前の段階で志望企業が固まり始める、いわゆる「早期に動く学生層」との接点を確保するため、大学2年生の2〜3月から情報発信を開始する企業も存在します。加えて、低年次向けのイベント等で関係構築を図る企業も増加しています。
このように、実質的な就職活動のスタートラインは年々前倒しになっているのが実態です。
2. 変化する新卒評価ポイントと求める人物像
事業環境の変化に伴い、企業が学生に求める能力や人物像も変わってきています。従来重視されていた「コミュニケーション力」や「協調性」に加え、近年ではAIには代替しにくいとされる「課題発見力」や、正解のない中で考え抜く「思考力」が、評価の重点として挙がるようになってきました。
また、一括採用によるポテンシャル評価だけでなく、特定の専門スキルや、業種を問わず持ち運び可能な「ポータブルスキル」、そして物事に取り組む姿勢である「スタンス」を複合的に評価する傾向が強まっています。
初期配属先が不透明であることに不安を感じる学生の増加を背景に、「初期配属される事業や部署が確約される採用」を行う企業も増えつつあります。
3. 就活ツールの多様化

従来の就職活動は、学生が「ナビサイト」を用いて企業を検索・応募する形式が主流でした。しかし近年では、企業が学生のレジュメを見て直接アプローチする「オファー型」、キャリアカウンセラーがおすすめの企業へ仲介する「エージェント型」、イベント内でのグループワーク等を通じて選考する「イベント選考型」など、手法が多様化しています。
こうしたツールは、それぞれに特徴や適性があり、学生にとってのメリット・デメリットも異なります。そのため、就職活動を支援する立場にある教職員には、各手法の特性を正しく理解したうえで、学生一人ひとりの状況や志向に応じたアドバイスを行うことが、これまで以上に求められています。
就活支援において大学・学部として重要なのは「基準値の統一」
就職活動の環境が複雑化する中で、大学・学部のFD・SDとしてまず取り組むべきは、キャリアセンターと学部教職員間での「基準値の統一」です。学生に一貫したメッセージを届けるためには、支援者側が共通の前提や視点を持つことが欠かせません。
学生が直面する悩みの具体例

学生が就職支援を受けて戸惑うケースとして、実際にこんな声を聞いています。
「学部のガイダンスでは『まずは多くの企業を見て自身の方向性を検討するために、15社程度エントリーすべき』と聞いたが、キャリアセンターの個別相談では『4社に絞ってじっくり調べて受けるべき』と言われ、どちらが正しいのかわからなくなった。」
また、次のような声もあります。
「ある職員にエントリーシートを添削してもらい、褒められたが選考に中々通過せず、別の職員に見せたら『この内容では受からない』と否定されてしまった。」
就職活動に唯一の正解はありません。しかし、支援者によってアドバイスの基準が大きく異なると、学生は混乱し、行動できなくなってしまいます。
FD・SDにおいて重要な基準値の統ー
簡単なことではありませんが、教員や職員それぞれの個人的な経験則に委ねるのではなく、大学・学部として
- 社会をどう理解させるか
- 自己理解をどう深めるか
- 面接をどう評価するか
といった大きな方向性と基準を共有・統一することが重要です。
こうした大枠の目線が揃うことで、学生は誰に相談しても一定の安心感を持って話すことができ、結果として納得感のあるキャリア選択へと進みやすくなります。
将来の方向性を見出すために押さえるべきFD・SDのポイント
就職活動の初期段階では、学生が「自分で自分の方向性を定められるようになる」ための支援が必要です。そのためには、「選択肢を知る(社会理解)」と「選ぶ軸を持つ(自己理解)」という、2つの観点からの支援が重要になります。
多様化する社会の理解は提供価値から考える

現代では、各企業の事業領域は複雑化しています。例えば「Amazonは何業界か?」と問われた場合、IT業界とも物流業界とも言えます。このように、企業を単純な業界分類だけで理解しようとすると、その本質を捉えきれなくなってしまいます。
そこで重要になるのが、「誰に、どのような価値を提供している企業なのか」という視点です。先程例に出したAmazonは、個人や企業に対して、利便性や効率性といった価値を提供している企業と捉えることができます。
この視点は、学生の視野を広げるうえでも有効です。医療系に興味がある学生であれば、病院への就職だけでなく、「医療・健康」という提供価値を軸に視野を広げることで、医療機器メーカーや、食を通じて健康を支える食品メーカーなど、より多様な進路の可能性が見えてきます。
3つの軸を目標に自己理解を進める

自己理解を深める自己分析では、モチベーショングラフや経験の棚卸しを通じて過去を振り返ることが一般的です。一方で、そこから「自分は何を軸に進めばよいのか」を見出せず、思考が止まってしまう学生も少なくありません。
Original Pointでは、過去の経験を整理する際に、
- マイテーマ(興味があり探究してみたいこと)
- 価値観(大切にしたい考え方・判断基準)
- 強み(ストレスなくできること)
の3つの軸で言語化することを推奨しています。これらを明確にすることで、自身の軸を活かせる企業を探しやすくなり、周囲の意見や雰囲気に流されずに行動するための指針を持つことができます。
SD・FDを通して面接支援をバージョンアップするポイント

就活が本格化する中で、面接を通過する学生と、通過できない学生が二極化することは少なくありません。その差を分ける要因として多く見られるのが、「事前の準備不足」と「振り返りの欠如」です。
たとえば、同じ自己PRを企業名だけ変えて使い回し、不合格になっても原因を分析せず、次も同じ失敗を繰り返してしまうケースがあります。
面接指導においては、面接本番の受け答えだけでなく、事前準備と面接後の振り返り・次への行動改善までを一連のプロセスとして支援することが重要です。ここからは、そのプロセスを3つのステップに分けて解説していきます。
「事前準備」の徹底
就職活動における面接は、当日の受け答えだけで成果が決まるものではありません。事前に企業を調査し、その企業に合わせて自己PRや志望動機を整理する「準備」の質が、面接結果を大きく左右します。
そのため面接練習においても、学生にあらかじめ企業情報を調べてもらい、その内容を踏まえた自己PRや志望動機を準備したうえで臨ませることが重要です。面接の場面だけを切り取るのではなく、準備から本番までを一連のプロセスとして経験させることが、実際に就職活動に必要なアクションを学ぶ機会になります。
「評価軸」の設定
面接支援においては、評価の視点を教職員間で共有しておくことも欠かせません。
たとえば、
- 第一印象・コミュニケーション力
- 主体性(自己PR)
- 熱意・成長意欲(志望動機)
といった基本的な評価軸を教職員間で共有することで、支援者ごとのブレを抑え、学生にとって納得感のあるフィードバックを行うことが可能になります。
自走を促す「振り返り」
面接力を高めるうえで、実践後の振り返りも欠かせません。
学生自身が、
- 事前に設定した目標に対して、どれ程度伝えられたと感じているか
- 実際には、どのように伝わっていたか
などを振り返り、話す内容や事前準備の改善に繋げていくことが重要です。
振り返りの際には、KPT(Keep:できたこと、Problem:できなかったこと、Try:次回の改善点)といったフレームワークを活用することで、内省を促しやすくなります。 学生が自ら課題を見つけ、改善点を考え、PDCAを回せるよう、振り返りの習慣付けを支援することが、本番での強さにつながります。
【事例】専門職就職が多い大学におけるFD・SD研修
最後に、これまで述べてきたポイントを踏まえて実施された、ある大学でのFD・SD研修の事例をご紹介します。
FD ・SDの導入背景
A大学では、従来、資格を活かした専門職への就職が進路の中心となっていました。しかし近年の市場環境の変化により、一般企業への就職も含めた多様なキャリア支援が求められるようになっていました。
一方で、教員・職員間では企業就職に関する知識や支援方針にバラつきがあり、最新採用動向を踏まえた情報共有や、統一したサポート体制の構築が課題となっていました。
FD・SD実施内容と成果
こうした課題を受け、キャリアセンター職員および学部教員を対象に、最新の採用市場の理解を深める講義と、面接指導のロールプレイングを組み合わせたFD・SD研修を実施しました。
研修では、企業視点での評価ポイントや、学生への具体的なフィードバック方法を実践形式で学びながら、支援における「基準値」をすり合わせを行いました。研修受講後のアンケートでは、理解度が5点満点中4.9点と非常に高く、
- 「企業の採用実態に基づいた内容で、明日からの学生指導に活かせる」
- 「就活スケジュールを踏まえ学内行事の設計を見直す視点を得られた」
- 「教職員協働の必要性を再認識した」
といった声が寄せられました。
編集後記
就職活動の形が変わり続ける今、大学によるキャリア支援もまた、継続的なアップデートが求められています。 教員と職員がそれぞれの専門性や強みを活かしながら、共通の「基準」を持って学生に向き合うこと。それこそが、学生の納得感あるキャリア選択を支える一番の土台となるのではないでしょうか。
Original Pointでは、各大学の課題やご要望に応じて、FD・SD研修の設計・実施を行っております。キャリア・就職支援の在り方についてお悩みがございましたら、お気軽にご相談ください。
Mizuki Muraoka
村岡 瑞妃
東京学芸大学卒業後、東京都の小学校教員に就く。大手人材企業での営業職を経て、2018年にOriginal Pointに入社。2020年には同大学院へ入学し、教育行政学・教育経営学の分野にて産学連携の在り方について研究。同時に人材育成・教育・採用の分野を主とし、フリーランスとして複数の組織で働く。出産を経て、現在はOriginal Pointの社員に戻り、育児と仕事の両立に奮闘中。教育学修士。