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就活ルール廃止に伴う、大学と企業と大学生の健全な関係性とは?

2018年10月9日、経団連が正式に就活ルール廃止を表明したことをきっかけに、改めて大学側・企業側の動きに注目が集まっている現在。

政府としては「混乱を避けるため」という理由から、21卒は現行ルールを維持する方向で定めていますが、ルールはあるようでない現状の中で、改めて大学・企業それぞれの立場から、キャリア教育や就活について模索していく必要があると考えています。

本日は、法政大学にて実際に学生の指導をされながら、これからの大学キャリア教育のあり方、採用のあり方をお考えになっている田中研之輔先生にインタビューしました。

法政大学 キャリアデザイン学部 教授 UCBerkeley元客員研究員 田中研之輔先生
著書『就活のトリセツ』『大学のトリセツ』『走らないトヨタ』『丼家の経営』等

これから求められる大学でのキャリア教育とは?

―まずは現在、取り組まれている授業や研究、活動について教えてください。

最近「就活ルール廃止」の流れから色々なところで意見を述べさせていただいているんですけど、今回はその意見の土台になっている、私が約10年間やってきた大学2年生向けの「キャリア体験」という授業をお話しますね。

「キャリア体験」は、学部の中でも目玉の授業でして、25名定員の中長期インターンに行く×授業で様々な社会人ゲストの話を聞く、というのが主になっています。今日も、フジテレビの方が来てくれたりして、学生と社会をつなぐような場を作っているんです。

僕自身は、社会学が専門で社会変化を洞察するのを得意としています。新卒採用も、歴史的な過渡期を迎えていて、新卒一括採用の未来を考えるタイムングを迎えています。そこで社会学の専門的な見識とこれまで10年間やってきた「キャリア体験」の実践を活かす形で今、動いています。

―ありがとうございます。そんな中、先日「就活ルール廃止」のニュースがありましたが、大学側の状況って実際どうなんですか?

大学側は、賛成派と反対派が大きく2極化している印象ですね。
反対派の主たる理由としては、大学での学びクオリティが下がるのではないか?ということですね。新卒一括採用が終わることによって、就活が前倒しされて、早期化・長期化すると考える人達は、大学での学びのクオリティに影響がでると感じているようです。

私は賛成派なのですが、もともと、大学の学びと就活は両立させるべきだし、できるものだと思っています。就活ルール廃止は、これに気付かせてくれるきっかけを与えてくれましたね。

よく考えてみてください。

親は育児と仕事を両立しているし、社会人で大学院に通っている人だって、学問と仕事を両立していますよね。なぜ、大学生の学びと就活だけ分断するの?って話ですよ。

この大学生の学びと就活の分断は、ただの文化でしかない。本当の社会のリアルは、働きながら他のこともできているんだから、大学生だって就活しながら学べるんです。

―ちなみに、間近でみている大学生の就活ルール廃止に対する反応はどうでしたか?

ちょうどこの前、私のゼミで就活ルール廃止について2〜4年生でディスカッションしたんですよ。「就活ルール廃止」を経験したことないからか、驚いたことに、みんな「就活が早期化長期化する」と捉えてしまっているようでした。「ルールは合ったほうがいいんじゃない?」という意見ももちろんありましたね。

一方で、自分が描くキャリアに基づいて、自分の好きなタイミングで就活を初めていいんじゃない?と考え始めた子もいました。

こういう歴史的な過渡期って、先が読めないから不安がまず増幅されてしまのですが、私自身は学生に「5年10年見据えて、プロティアン・キャリアのように自己成長に重きを置いて、自分の軸をもって、内定なんかにこだわらず、柔軟なキャリア形成をしていくといいよ」と伝えています。転職が当たり前になってきているのも、プロティアン・キャリアの考えの人が増えてきたからなのではないでしょうか?

―『就活のトリセツ』では、就活を人生という長期の目線から捉え、食わず嫌いをせずに社会理解を促すメッセージを感じました。実際に普段、どんな風に学生にキャリア指導をされているのでしょうか?

就活がこれほど問題になるのは、就活を始めるその時まで「働く」を経験したことがないからなんですよ。未経験なのに、どこかに就職してそのまま縛られてしまう。学生もある程度縛られることを予想はしているから、すごく就活を重く捉えている。

だったら、食わず嫌いじゃないけど、「先に経験しておきましょう。練習試合を積み重ねておきましょう」っていう簡単な話なんです。大学入学して、授業・アルバイト・サークル。ある程度時間が経つとなんとなくサイクルがわかるようになりますよね。そうしたら、アルバイトもやめていいと思うんです。そこで、中長期のインターンをして、「働く」を経験していくんです。

それも1社のインターンじゃなくて、複数するといい。そうすると、これまた大学入学の頃と同じ構造で、だんだん「働く」ということをわかるようになってくる。

だから私は、大学生でいながら社会経験を学生生活に入れていくように伝えています。

これまでゼミ生約160人、つまり160ケース分の事例がありますが、実際に働きだして上手く成長をとげていっている子たちは、インターンを経験し、そこでも成長を遂げた学生たちですね。

企業のみなさんへ。就活ルール廃止をきっかけに考えてほしいこと

―就活ルール廃止にあたって、企業にどのようなスタンスで新卒採用に携わってもらいと考えていますか?

私は「4ターム&プール採用」というのを提唱しています。

「一括採用やめました、通年採用です。」というときに、通年っていうと年度中ずっとやらなきゃいけないと捉えるんですけど、これは罠で、この罠に陥っちゃいけないよ!って伝えたいです。だから、ターム採用とプール採用を両方やるといい。

ターム採用は、3年の夏、4年になる前の春、4年の夏の3ターム。この3タームを集中的に採りにいくもの。さらに卒業直前の2月と3月の期間を入れて4タームを展開する企業もこれから出てきます。プール採用は、「卒業してからでもいいよ」とする採用で、22〜24歳のギャップイヤー入れて、採用していくもの。この両方を並行して実施し、これを通年採用という“呼称”としていくのがいいと思っています。また、企業の中には30歳以下までならプール採用として認めていく場合もあります。

「通年採用だから一年中採用やらなきゃ」と考えるのではなくて、もっと企業側はどんと構えて、この就活ルール廃止をきっかけに、採用にかける労力を減らしていってほしいと思っています。

余談になりますが、このときに大事なものとして、「キャリアポートフォリオ」があると思っています。経団連の中西会長は、大学の成績証明書をもっと充実させてそれを就活に使おうって言っていますが、実際には大学によって偏差があるから人事が見るのはなかなか厳しい。だから、インターンシップの経験とか個人のキャリアに紐づけた「キャリアポートフォリオ」を作成して持っていくようにしていくと良いのではないかと考えています。

「大学の学びと社会での学びは仲が良い」これから広めていきたい世界観

―最後に田中先生が、これから力を入れて取り組まれていきたいことを教えてください。

そうですね、やっぱり今歴史的過渡期だから、企業の人はどんどん大学に近づいて来てほしいと思います。採用という軸じゃなくて、働いている先輩として来てくれたら嬉しいですね。私は大学生が企業のリアルな場に入っていく仕組みをつくっていきたいし、逆もしかりで、大学の場に企業の人が来て一緒に学ぶような仕組みをつくっていきたいですね。

大学と企業、言うなれば、「学校と社会に壁はないんだよ」と伝えていきたいですね。これを聞いて、「何を綺麗事言っているの」と思う人は、新卒一括採用を批判しながらも、結局は、新卒一括採用の中でしか物事を考えられない人たちです。

この国を良くしていく、この国の生産力を高めていく、グローバルシーンの中で負けない人材を育てていく、そのために、それぞれの強み同士を生かしていく。こんな世界観を目指していきたいですね。

「大学」と「企業」をダイコトミー(対立)でとらえるのではなく、ミューチュアル(相互補完的)なトランジション(移行)を生み出すパートナーとして捉えるべき、時期を迎えたのです。

インタビュー後記

日本ならではの「新卒一括採用」は、職務を限定せずに、入社後に様々な仕事を通じて「成長」を促していくのが前提です。

しかし、大学キャリア教育では「職務ベースの即戦力採用」を前提とした、海外でのキャリア支援メソッドをそのまま活用して、職務ベースの即戦力採用を前提としたものになっていることも多々あります。

あくまで一例ではありますが、「就活ルール廃止」を契機に、こうした矛盾と向き合い、本質的な価値を見出していきたいと思います。

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