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探究レポート

20代のキャリア開発

【キャリア開発3.0】デザインしないキャリア研修の可能性とは!?-令和時代のキャリア自律を考える-

企業主導のキャリア研修では本音が聞けない!?

「ふと、10年後の先輩をみてキャリアが見えなくなった。退職する際は”夢をおいかける”という嘘でのりきった。」これは、大手企業の退職者インタビューの際に、若手社員の方が漏らした本音です。まあ、尊敬できない上司に本音は言えないよなあという共感をしながら、世代によるキャリア観のギャップによる人・組織の課題は往々にして尽きないなあと思います。

終身雇用が崩れ、転職市場も加熱する中で、組織としては、社員の活躍に加えて前向きな定着を後押ししていくことが求められる中で「キャリア開発」に注目が集まっています。

一方で「辞めさせない!」という大義名分の下で、過去を振り返り、数年後の未来を考え、数ヶ月には忘れ去られるアクションプランを書くといったキャリア研修は、今日もどこかで繰り返されています…希望が叶うかもよくわからない形だけのキャリア面談も勿論です…

Original Pointとしてはキャリアというテーマへの関心から、「キャリア研修は転職を助長するのでは?」「キャリア開発の費用対効果がみえない」「キャリア面談は形骸化する」といった人事・経営者の方々の声と向き合いながら、あるべきキャリア開発・キャリア研修の形を模索してきました。

この探究レポートでは、Original Point(株)で取り組んできた調査や法政大学キャリアデザイン学部田中教授・東京経済大学キャリアデザイン研究所の小山准教授との講演から、令和時代のキャリア開発のベースとなるキャリア開発3.0について紐解いていきたいと思います。

キャリア開発3.0とは何か?

歴史を紐解いていくと、高度経済成長期の日本においては「終身雇用」という仕組みを前提に一括採用を行い、”組織主導型”でジョブローテーションによって個人のキャリア開発を進めていくことが主流でした。

その後、バブル崩壊を機に「成果主義」「能力評価」という概念が持ち込まれ、社員は継続的なキャリアアップを求められることになりました。”単線的計画型”と表現しているのは、中長期の理想の姿を描き、その姿を実現するためのマイルストーンを段階的に設計する考え方になります。

しかし、これだけ変化の激しい時代において、求められるスキルや役割の変動性が高いため、中長期スパンで先を描くこと自体が難しいのです。また、メンバーシップ型の日本においては職務が限定されない総合職・一括採用が主流のため、中長期を描いても”組織主導の異動”によって、絵に描いた餅で終わるケースは少なくありません。

だからこそ、令和時代のキャリア開発は、時代の変化やニーズに合わせて、自分を変革をし続けるキャリア開発3.0が必要なのです。

キャリア開発3.0を推進する3つのポイントとは?

東京経済大学・小山先生は、日本のキャリア開発で取り入れられている理論は、往々にして欧米のジョブ型採用を前提にしたものが多く、その理論が必ずしも一括採用という職務を限定しない日本の風土にフィットするとは限らないと提唱しています。

Original Pointとしても、日本の風土に合ったアプローチを模索する中で、ここからはキャリア開発3.0を推進するにあたってのポイントを3つに絞って解説していきます。

1,キャリアを「経験」から「資本」で捉えるという発想

法政大学キャリアデザイン学部田中教授が発信し注目されているプロティアンキャリア論の意味をたどっていくと「環境にあわせて変幻自在に姿を変えることができる」という意味があります。

変化対応力を高めるには、キャリアを資本という発想で捉え、ビジネス資本(ビジネススキル、知識)、社会関係資本(社内・外の人とのつながり、人脈を形成する力)を蓄積しておくことが大切だといわれています。資本の積み重ねが、新たな機会を掴むための信頼となり、成果を出す上での素地になるからです。

キャリア研修において「過去の経験を振り返る」というアプローチは往々にしてありますが、”蓄積された資本”と”これから蓄積するべき資本”について考えるということは、変化対応力を育むには必要な観点です。

2,Will・Can・Mustを重ねるキャリア研修の終焉と、マイテーマという道標。

単線的計画型のキャリア研修においては、Will(やリたいこと)・Can(できること)・Must(求められること)の重なる部分を見出すことが主流でした。

キャリア研修終了時においては、ビジョンとや数年後の理想の姿という言葉でアクションプランシートを書き上げ宣言するものの、数ヶ月すると忘れ去れるといった現実もあるのではないでしょうか…

日本のこれからのキャリア開発においては、Needs(顧客の期待)を起点に自分のWill(興味・関心)とCan(できること)を都度拡大していくことが重要です。その際のキードライブとなるのが現在の興味から紐づく”マイテーマ”です。

マイテーマは「興味から探求したい問い」という道標のようなものです。自分の組織・仕事における興味を可視化し、紡ぎ出し、数ヶ月のスパンで都度見直していくものとなります。

ビジョン「将来の理想像」と比較すると、『固定的ではなく、常に変化するもの』『過去の経験からではなく、現在の興味から考えるもの』『節目ではなく、定期的に見つめるもの』といったことがマイテーマの特徴になります。

漠然とした未来について無理に綺麗なビジョンを言語化する必要はありません。まずは納得感のある暫定解を導き一歩踏み出すことを後押しすることが、これからのキャリア形成につながるでしょう。

個人のキャリアの8割は偶然的な事象に決定されるという「計画された偶発性」という理論がありますが、その偶然を引き寄せるためには、自らの一歩が必要です。一歩踏み出した後に軌道修正をするといった探求する姿勢が、キャリア開発3.0なのです。

3,個人だけではなく、組織(環境)における提供価値と向き合う思考スタンス

企業主導でキャリア研修を企画すると、必ず聞かれる「転職してしまうリスクがありませんか?」という問い。結論「わかりません」とお伝えしたいところですが…個人の興味と向き合うことだけがキャリアを考えるという訳ではありません。

幾つかのポイントがありますが、自己変革型のキャリアにおいては、「自分のマイテーマ」に加えて「自分の仕事の提供価値」についても向き合う必要があります。

昨今、変化スピードの早い時代においては商品(価値)のライフサイクルは明らかに短くなっています。例えば、HR業界もテクノロジーの力や海外の先行事例等によって、成長支援するサービスは”研修”以外にも様々なものが生まれています。つまり、既存のモデルへの慣れは、顧客への提供価値を下げることにつながります。

しかし、長年の組織への慣れが、「売上が下がっているなら、これまで以上に足で稼げばいい」「そもそも、経営や開発が新サービスを生み出せていないのが悪い…」等と、既存の仕組みを回すことへの問題意識のアンテナを鈍くさせていく現実があります。

エドガー・H・シャインが提唱するキャリアサバイバルにおいては、”組織ニーズ”と”個人ニーズ”の調和が肝になるという考えがありますが、キャリア研修を通じて「個人」と向き合うことは勿論、「組織(環境)」における関係者のニーズの変化へアンテナを立てることが、”現状”(既存の提供価値)に対して、”疑問”を立てて、仕事をアップデートすること(新たな提供価値)への一歩になるはずです。

キャリア研修だけで解決はしない!?キャリア開発会議のススメ。

キャリア研修という切り口から、これからのキャリア開発のあり方について触れてきましたが、キャリア研修をアップデートすることによって、”個人のキャリア自律の促進”や”離職者の是正”等につなげていくには限界があります。

「現場でキャリア開発支援が行われる仕組み」「組織風土にアプローチする制度」「組織の根底にある価値観」等、見つめ直すポイントは様々です。例えば、OJTの仕組みとっても、個々のスキルを伸ばす”成長支援”に焦点があたりがちですが、個々の心理的成功にアプローチする”キャリア支援”にも着目する必要があります。

また、雇用の流動性が高まる昨今において、退職者を”裏切り者”のように揶揄する風潮のある組織もありますが、退職者をアルムナイとしてつなぎなつつ、協業や出戻りを歓迎したり、広報ブランディングへの協力を要請したり、つながる組織もあります。

エンプロイアビリティー(Employability)個人の雇用される能力を開発するだけではなく、エンプロイメンタビリティ(employmentability)企業の雇用する能力を高めるために「組織課題」「目指す方向性」「組織としての価値観」について議論しながら、キャリア開発会議をはじめてみるというのも一つかもしれません。

必ずしもキャリア研修という打ち手だけが万能薬だという訳ではないのです…

キャリア開発3.0を目指す先にあるもの

スマホ1つあれば、おおよそのスキルは学べる時代に、わざわざ集合研修を提供する意味はあるのだろうかと…「数年後の理想の姿」といったアクションプランは研修会社が満足するためのツールであって、現実は数ヶ月もすれば忘れさられることが多く「組織と個人のパフォーマンス向上に寄与しているのか?」ということに真正面から向き合いたいというのが、企業向けのキャリア開発に取り組むきっかけでした。

先日実施した12社の2年目社員を対象にした調査においては、「社会への貢献意欲は高いが、現実の仕事では活かせておらず満足していいない」という社員が半数を超えていました。

「組織は、既存の仕組みを回すために個人をルールで拘束し、個人は所属による安心感を得るために依存する」といった関係性を続けていては、組織と個人は共倒れします。

キャリア開発3.0という変化に合わせて個人と組織をアップデートするという考えの先に、”組織”が「働きがいのある機会を提供するため」の支援を行い、”個人”が「組織を通じて社会に貢献(価値提供)し活用するため」の一歩踏み出す状態を目指すことができれば幸いです。

Original Pointとしては、日本に馴染むキャリア理論を過去の理論の再定義や、新たな調査・研究、企業での実践から日本ならではの理論を見出してキャリア開発に反映することに力を入れています。人事内でのキャリア開発会議の支援もしているのでお気軽にお声がけいただければと思います!

▶︎レポートの中で紹介させていただいた「プロティアンキャリア」、少し古いですが個人と組織の関係性を見つめ直すきっかけに「アライアンス」を共有させていただきます。個人的にお勧めの2冊です。

高橋 政成

高橋 政成

Masanari Takahashi

大学を卒業後、人事コンサルティング会社(株)シェイクへ入社。研修プログラム開発、コンサルティング営業として、100社以上の人材育成に携わる。トップセールスを達成した後、最年少マネジャーへ昇格。その後、既存事業と兼務で、大学向け教育の新規事業を立ち上げ。2016年、大学・採用・キャリア開発の領域から、新たな価値を創るためにOriginal Point株式会社を設立。

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