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神戸大学 金井壽宏教授と考える、新卒採用におけるRJP理論の可能性とは?(RJP=リアリスティック・ジョブ・プレビュー)

キャリアの節目である就活のあるべき姿とは?

就活ナビサイトによる待ちの採用戦略にも限界がきている昨今…

ダイレクトリクルーティングをはじめ、様々な採用戦略によって就活市場は混沌としています。

人材不足が叫ばれる中、「自社の魅力を発信していくこと」「接点を持った就活生への動機付け」等々、採用目標達成に向けて尽力されている新卒採用担当の方は多いのではないでしょうか?

「オワハラ」という言葉もありますが、企業から学生への積極的なアプローチは、社会や自分への理解が浅いままのキャリア選択を迫ることにつながります。

また、企業が発信する情報は断片的であることも多く、入社後のリアリティギャップを助長させることにもつながってしまいます。

弊社は採用活動において、アメリカの産業心理学者であるジョン・ワナウス氏が提唱し、日本では神戸大学の金井壽宏によって広められたRJP(Realistic Job Preview/リアリスティック・ジョブ・プレビュー)理論をベースとした採用手法が広がることが、企業と就活生双方にとって理想的であると考えています。

RJP理論とは?

RJP理論(Realistic Job Preview)は、現実をしっかりと踏まえた仕事の様を(その仕事の良いところも、大変なところも)、入社前で仕事に就く前から、できる限り正確に応募者へ伝えるのが、RJPと略称される方法のことです。期待される効果としては以下の4つがあります。

(1)過剰期待を事前に緩和し入社後の幻滅感を和らげる効果(ワクチン効果)
(2)入社後の役割期待をより明確かつ現実的なものにする効果(役割明確化効果)
(3)自己選択、自己決定を導く効果(スクリーニング効果)
(4)入った組織への愛情や一体化の度合いを高める効果(コミットメント効果)
※引用:金井壽宏『働くひとのためのキャリアデザイン』PHP出版 2002年 172項・192項

今回は、神戸大学の金井壽宏氏(以下、金井氏)とともに、RJP理論やこれからの採用のあるべき姿について考えていきたいと思います。

ーRJP理論は著書でも整理されているかと思いますが、改めて簡単に教えてください

キャリアの節目において適切な意思決定をするためには、できるだけ役立つ情報が欲しいですよね。それを提供することがRJP理論と言います。

例えば、就職や結婚。

どちらも、長い期間を共に過ごすということで共通していると思います。

そんな時に、その長い期間で起きることを全て把握することは無理に等しいと思いますが、予期できることを知っておくことは「企業と学生」「夫と妻」双方にとって悪いことではないですよね。

「就職」にあたっては、管理職までのキャリアの情報は伝えてもいいと考えています。

ーRJP理論について研究される中で、企業での事例はありますか?

私が過去携わった一つの事例は証券会社ですね。

証券会社の魅力として「変動商品にしかできない、株のロマンがある」「銀行の固定金利では見ることのできない夢が見れる」「株は賭博ではなく、数学的研究もしている」を伝えていく。

もちろん、変動商品を扱っているので、お客さんに損させることもあり、そこからトラブルを経験することになるという実際の姿も伝える必要があります。

その実際の姿も伝えていくことが、採用に際して、現実的な情報を提供しようとしているという意味で、一種のリアリズムです。

—その事例のように、採用においてネガティブな情報も知りたい学生は多いと思います

当然ですが、リアリズムのなかには、仕事のきびしい側面などネガティブな点ばかりではなく、その会社で経験できる文字通りポジティブなことも伝えることも肝心です。

—仰る通りですね。RJP理論は採用において欠かせない考え方である一方、日本の採用市場においては深く浸透していないように感じますがなぜでしょうか?

RJP理論は、人事部で知っている人は知っているけど、「弊社の人事部はRJP理論を踏まえて採用をやっています」と発信している人がいないですからね…

そもそも認知されていないかもしれませんし、もう少し噛み砕いた表現の方が伝わりやすかったのかもしれませんね…

—金井先生はどのような部分に魅かれたのですか?

ジョン・ワナウスという学者が使った言葉は、Realistic Job Preview(リアリスティック・ジョブ・プレビュー) という言葉で、RJPとも略されます。むりやり略せば、現実的な職務の姿を事前に(会社に入る前に)お見せしましょうというような意味合いです。

つまり、その職務に実際に着く前に、いったいどういう仕事をすることになるのかを、いい点もわるい点も、リアリズムに基づいて、事前にお伝えしようという技法であり、それを支える哲学でもあります。

このRJPというのにピンときたのは、たとえば、学者になりたいので大学院に進みたいというひとがいたら、学者という仕事、その職務が実際には、どの程度、つらい面もあるかをきちんとリアルにお伝えしたうえで、学者の道を選ぶか、産業界でのキャリアを歩むか、決めてほしいと感じたからです。

自分のことを振り返っても、ゼミ生のことを思っても、あるいは、学者という職務につく院生にも、その世界に入る前に、その世界のことをリアリズムで知ろうとするのは大事だと思いました。

ー私自身も、企業の人材育成支援から垣間みる職場の実態と、採用支援からみる実態のギャップからその重要性を実感しております

例え話ではありますが、ウルトラマンの後継者を探すときに、どんな求人広告を出しますか?

これ、リアリズムで採用活動を進めなかったら大変なことになりますよね。

「アイテム一つで巨大化して強くなれる」「テレビに出て、国民のヒーローにもなれる」「子供から人気者になる」だけではないですよね…

バルタン星人のような誰もが戦いたくない敵と戦い、仕事としては、パンチを浴びせるが、自分もパンチ等の応酬を受けるかですよ。

リアリズムっていうのは世間的には格好よくても、そこだけではない大変な側面があるということだと思いますよ。

私の身近なところでいうと、大学教授が後継者を採用するときに、学者のネガティブなことを言わなさ過ぎるということも起きていますね。

ー企業の採用担当も同じ状況に陥っていますね…

そうですね。理不尽や苦労を乗り越えて「現在」がある人を話す人が少ないんですよね。

「会社の理念を実現するために、どこで汗を流しているか?」

「営業でトップになる過程で、どこでイジメじゃない苦労をしているか?どんなことに耐えてきたのか?」

本来は、ネガティブな情報ではなく、その会社での成長をイメージするにあたって必要な情報だと思うんですけどね。

ー世間一般でいわれる仕事のポジティブとネガティブな情報の両方を伝えること、情報の受け手がそれらを受け入れることは、採用の他にキャリア開発にもつながるかもしれませんね。

キャリア開発にもつながると思いますよ。

「辛いときは辛い」「辛いことを乗り越えると称賛される」って、どこの仕事でもある。

その次の世界の表・裏両面を知ること、その世界で辛い壁に直面したときにどうするべきか考えることは、授業科目にしてもいいくらいだよね。

大学生に授業をしていると、キャリア・モチベーション・リーダーシップの3テーマは喜んで聞いてくれるから、興味を持つと思いますね。

ー仰る通りですね。RJPの世界観を広めるために、引き続き企業や大学との対話を重ねていきたいと思います。

インタビュー後記

大学生にかかわる中で「就活ナビサイトを見ても綺麗なことしか書かれていない」「会社パンフレットは信用できない」といった声を一定数聞くことがあります。

新入社員向けの入社半年後の研修においても、リアリティギャップは新入社員の成長を鈍化させる原因につながります。

採用目標の達成だけではなく、その先にある新卒社員の育成も見据えた採用戦力に落とし込めると、企業と学生双方にとって価値のある新卒採用になることを改めて実感したインタビューでした。

本来、仕事で成果を出すプロセス、成長するプロセスにおいて、乗り越えるべき壁は必ずあるものです。その情報を「企業は、ネガティブだから伝えない」「学生は、ブラックだから避けたい」という立場から脱却する動きをつくることが必要なのかもしれませんね…

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