大学キャリア教育 事例
キャリア教育の種になる?社会で求められる力を育む地方高校で実践される探究学習とは?
探究学習が求められる時代背景にあるもの
新学習指導要領の施行に向けて、アクティブラーニング、カリキュラムマネジメントをはじめ、様々な学習方法を取り入れ試行錯誤する動きが加速しています。新しい時代に必要となる資質・能力の育成を育むには、従来の知識習得型の学習方法だけでは限界があります。
新たな取り組みの一つである探究学習は「自ら課題を設定し、その解決に向けて探究・行動し、 振り返り、改善し次に生かしていく」 ことを目的に行われる、時代に合わせた学習方法です。
弊社も先日、生徒の”探究学習”をサポートする教員の方々向けのガイドブック開発に携わらせていただき、「生徒の興味」と「社会で求められること」を掛け合わせてテーマ設定を行い探究を促すプロセスは、大学キャリア教育やその先の企業での人材育成に通ずる部分が多くあるなと実感しております。
本日は、島根県の高校で探究学習の設計に携わるNPO法人カタリバの森山さんと一緒に、探究学習の可能性について考えていきたいと思います。
高校魅力化コーディネーターとして取り組む探究学習とは?
―高校魅力化コーディネーターという立場として探究学習を設計しているようですが、そもそも高校魅力化コーディネーターとはどんな役割なのでしょうか?
高校魅力化コーディネーターは、昨今の様々な教育施策を実施していくために、学校の中に席をおいて学校内外との接続の役割を担い、仕事をしています。
主には、探究学習の授業設計や授業開発、これらを実現していくための先生のチーム作りや先生向けの研修、あわせて、探究学習における生徒の成長や、先生の指導に関する評価の仕組み作りをやっています。
社会に開かれた教育、カリキュラム・マネジメント、アクティブラーニングの仕掛け人としても動いていますね。
推進していくためには、学校内外の接続も必要になってくるので、外部人材のコーディネートやフィールドワークのコーディネートを行い、学校外の学びの場とつなげていっています。
こうやって、魅力的な教育環境を創ることにより、その環境で学びたいと思う生徒が県内外から増えていくことを目指しています。
―探究学習はどのような背景から、高校の教育現場に導入されたのでしょうか?
学習指導要領の改定は影響が大きいと思います。知識・技能を持っているだけではなく、それらを使いこなす資質・能力の育成が、今回の改定の大きなテーマであり、これからの時代においても重要なポイントとなるもの。
この資質・能力の育成として、課題設定する力や情報収集をしたり、整理、分析したりする力、まとめや表現をしていく力のような、その課題に向けて探究していく力を育むのに探究学習が必要だと言われているんですよね。
私の個人的な考えも言うと、自らの興味関心のあるテーマを深めて学んでいく一連の探究学習のプロセスは、自分自身の価値観の幹を太くしていく作業だと思うんです。自分が興味もったことややりたいと思ったことに対して、アクションを伴って仮説検証を繰り返し積み重ねていく。アクションするごとに自らの興味関心が洗練され、自らの大切にしていきたい価値観への自己認知や自己理解を深めていくことができる。探究のサイクルを回せば回すほど、年輪が増えていくように興味関心は広がり、価値観は育まれていきそれが自分の幹になると思うのです。
探究学習って必ず、自分と社会の交わりの中で活動していかなきゃいけないので、その時に起きる葛藤や板挟み、うまくいかないこと等が生じてきます。でも、これらを含めた一連のプロセスが、ある意味人生の縮図であり、これを体感して学んでいくことが醍醐味かなと思っています。
探究学習を機能させるための3つのポイントと様々なハードル
―探究学習を機能させるためのポイントを教えて下さい
ガイドブック開発でも一緒に考えさせていただきましたが、大きくは3つあります。
1つ目は、「意思を引き出す」です。
私がいる高校では、1つのテーマを約半年ぐらいかけて探究していきます。そのため、生徒が向き合い続けたいという意欲が湧くテーマ設定を支援することが肝になります。
2つ目は、「考え、行動を引き出す」です。
探究学習において、表面的に解を導き出すことには意味がありません。むしろ、綺麗な解を出すことよりも、自分が設定したテーマに対して考え、行動した数が、生徒にとっての成長につながりますね。だからこそ、様々なヒントを与え、生徒の考えや行動を引き出すことが大切になります。
3つ目は、「発見を引き出す」です。
行動して終わりにならないよう、生徒が行動して獲得した経験から、発見を引き出し、学びや成長につなげていく支援が重要となります。
―とはいえ、興味の開発をはじめ現場では様々なハードルがありますよね?
そうですね、本質を突き詰めれば突き詰めるほど、やはり学校の中で行うのは、難しいなと感じます。限られた授業時間数の中で、生徒がテーマを見つけるスピードも、探究するスピードも異なる中で、学びの個別化をしていくことがとても難しい。
生徒の探究学習をサポートするためのガイドブックも作りましたが、先生も慣れているわけでないため一斉授業のようになってしまったり、先生対生徒の人数比の関係で個人ごとではなくチームごとにテーマ設定して行うので、チーム全員の興味関心をすくい上げ切れずに、どうしてもやらされ感っぽくなってしまったりします。
あとは、深まりの度合いも難しいポイントですね。「課題設定―情報収集―整理・分析―まとめ・表現」のサイクルをどのくらい回せるかが、大事ですね。
この辺は、学校教育(教育課程の中)と社会教育(教育課程の外)の役割を改めて考えて、学校外での生徒の学びとサポートできる体制や仕組みをつくっていければと考えています。
大学キャリア教育にもつながる?探究学習の可能性を探る
―最後に、探究学習の可能性や今後の取り組み方針について教えて下さい
探究学習を進めていくにあたっては、まだまだ様々なハードルがありますが、生徒にとっては、少なからず意味があると思っています。プロジェクトを掲げてからなかなかアクションできなかったり、モチベーションが下がってしまったりと色々なタイミングがあるんですけど、この一つ一つが生徒にとっては学びなんですよね。「何でモチベーションが下がったのだろう?」と振り返り、自分に気付くきっかけになるんです。
ただ、このような個人ごとの振り返りも含めた本質的な探究学習を行っていくには、プロジェクトの「個別化」が肝になると思っています。今後は、このあたりの学校教育の限界がある中で、上手く社会教育と接続していけるように、機会として創りたいと思っています。
私が所属しているNPO法人カタリバで行っている「マイプロ」のようなものが、学校の中でも部活動のような形で生徒がチャレンジできるように仕組みを作っていきたいですね。
インタビュー後記
私自身学校教育の中にいたので、現場での様々なハードルに非常に共感しながら、森山さんのお話を伺っておりました。1年単位でしかPDCAを回せないスピード感にもどかしさを感じますが、少しずつ進化している探究学習は、その後の大学での学びや就職後の学びの土台になるものだと思っております。
特に、森山さんがおっしゃっていた探究学習のプロセスによって価値観の幹が太くなっていくというのは、弊社で提唱しているマイテーマ探求とも近い世界観だと感じました。
弊社としても、高校で探究学習を経験し大学へ入学してきた学生が、社会に出ていくまでのサポートをより一層充実していきたいと考えています。
Mizuki Muraoka
村岡 瑞妃
大学卒業後、1年間東京都の小学校教員として担任を務める。その後、エン・ジャパン(株)に転職し企業の採用支援や評価・教育研修サービスの提案営業を行う。現在は、Original Pointへ参画し、大学キャリア教育や新卒採用領域の事業推進に携わっている。