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『辞める研修 辞めない研修』から考えたい、イマドキ若手のキャリア論

「最近の新人は主体性が…」「考える力が弱い…」「マナーができていない…」等々、新入社員研修の時期になると、人事担当者をはじめとする企業の期待とプレッシャーが注がれます。

短期間で「組織社会化」「成長」を期待するが故に、それが良い方向に進むときもあれば、悪い方向に進むときもあるのが現実です。

本日は組織エスノグラフィー(組織に属する人びとの行動様式を詳細に記述する方法)を用いて、研修のリアルを炙りだした『辞める研修 辞めない研修』の著者である法政大学の田中先生と、新入社員の受け入れ方や、イマドキの新入社員に合わせたキャリア論について考えていきたいと思います。

「型にはめる」組織社会化は機能するのか?

―本書では「研修期間の育成に拘る担当者」と「現場の育成に拘る新担当者」の摩擦による、育成効果の違いがリアルに炙りだされていました。改めて、この本でお伝えしたかったメッセージを教えて下さい。

どんな企業においても実施されている新人研修。しかし、他社の新人研修のリアルは知りえないのが現実。

だからこそ、一つの会社の新人研修のリアルを炙り出した本著を通じて、自社の新人研修を客観視してもらいたい。これからの研修の地図になればという想いで書かせていただきました。

―本書で描かれている会社においては”組織社会化”をキーワードに「型をゆるめる」よりも「型にはめる」が機能していましたね。会社によって考え方は変わると思いますが、田中先生が研修担当だった際、どんなポイントに拘りますか?

学生と社会人のギャップを埋めていくことには拘りたいですね。

ただ、「厳しくアプローチするか?」「個々に合わせてアプローチするか?」それは職種によっても異なることだと思います。

本著で取り上げたIT企業は、営業においてもエンジニアにおいても、チームでのコミュニケーションが重要になっています。個人でやりきる仕事に加えて、協働することが大切だからこそ、「報・連・相」を研修期間に義務付け、その質を高めていくことで新人の成長を促していましたよね。

大学においては、あくまで知識学習中心の授業が主に展開されるため、社会的なコミュニケーションレベルまで鍛え上げるのは難しい現実があります。

そういった背景を踏まえると、ビジネスシーンにおける基準を厳しく示しつつ、行動変容を促していくアプローチは欠かせないと感じます。

ちなみに、本著に登場する三島さんは普段は優しい方ですが、学生と社会人のギャップを埋めるために、あえて社会的な厳しさを伝える役割をパーフォーティブに演じてましたね…

―学生と社会人のギャップを埋めるために「折れる経験」というのも本書の研修においてキーワードになっていましたね。昨今の新卒社員に対して「折れる経験」の付与についてはどう考えていますか?

その企業のクライアントのレベルに応じて必要になってくるものだと思いますね。あくまで、“組織内で通用する人材”ではなく、“社外でも通用する市場価値の高い人材”を育てていくことが必要ですからね。

もちろん、メンタル的に追い詰めるようなアプローチは正しいと思いません。

本著の研修において「折れる経験」の要素はありますが、あくまで研修期間の厳しい空気の中でのロールプレイですよね。現場で顧客に迷惑をかけて落ち込むくらいなら、クライアントのレベルに合わせた基準を示し、研修期間の中で実践的なアプローチをしていくことは効果的だと思います。

大学までにおいて「失敗から学ぶ」という機会が多くない現実に加えて、ビジネスシーンにおいては「できる社会人」に合わせて進んでいく“厳しさ”もありますからね。

一人ひとりのキャリアを白紙にする一括採用の現実と向き合い方

―「受講者特性を仕組みによって把握した監督者の配属」「形式的な面談は実施する一方で、役員による機械的な配属」の違いもリアルでしたね。新卒一括採用における配属ポリシー、入社後のリアリティギャップへの向き合い方は、問い直してもよいかもしれませんね。

仰る通り、昨今は人事の役割が明らかに変わってきています。

「内定を出す」「研修を実施する」だけでは役割範囲が狭いです。

機能している人事部門は「人が足りないから補充する」ではなく、「誰をどの部署に、どのような意図で配属していくのか?」と、戦略的に配置をしています。一括採用だからといって、一人ひとりのキャリアを白紙にして、配属することには違和感がありますね。

―一括採用という文化に加えて、採用部門と育成部門の溝、人事部門と現場の溝が、新卒社員のファーストキャリアの形成に影響を及ぼしてますよね…

そうなんですよ、そういった現実は多く存在しますね。

昨今は、25歳くらいを機に「急に折れる」「転職する」といったことも少なくないですね。組織内において、ファーストキャリアを支援する仕組みは欠かせないと思います。

―本書でも題材にあがっていましたが「離職理由の根本要因どう捉えるか?」ここを履き違えると施策も逆効果ですよね。「本音を言わない若手」への向き合い方はどうあるべきだと思いますか?

人事部門がキャリアコンサルタント的な役割を担っていくことは一定数の効果があると思っています。例えば新人研修期間において、手間なんだけど1on1で本音を引き出す機会を組み込んでいく。

「今、何に不安を感じているのか?」「どんな壁に直面しているのか?」丁寧にすり合わせをする機会の中で、ファーストキャリアの拠り所になっていくと良いと思います。ユニリーバの島田さんも、「自社の中で、その個人の存在を承認する」ということを大切されているようです。

研修期間で完璧な人材が仕上がる訳ではなくて、しんどいのは配属後ですからね。若手の中には「上司に相談したら負け」と考えている人も存在しますから、人事がファーストキャリアを支援する味方になってあげると良いと思います。

イマドキ若手のキャリア論

―企業研修においては「辞めさせないキャリア研修」というのも事実存在します。「組織と個人の関係性の変化」「若手本人のキャリア観の変化」がある中で、組織として必要だと思われるキャリア支援に踏み込んで教えてください。

「辞めさせないキャリア研修」は、明らかに時代に合いませんね。そもそも「辞めるからダメ」という発想自体がズレているのかもしれません。

それよりも、個々のキャリアと向き合い「良い人材を育てて輩出していく」ということに拘った方が、口コミで良い人材が集まり、人が定着する組織として創られていくと思います。

そのためには、適度なストレッチ経験を与え続けること。定期的に個々の現状認識を促すことや次のステップを考える機会を設けること。それが大切だと思います。

最初の3年間は誰しも迷いますからね。人事や現場の上司がコーチとなってサポートしていくことが大切だと思います。

―仰る通りですね。最後に、これから会社の未来を担う新入社員を受け入れる人事の方や現場の育成担当者の方へメッセージをお願い致します。

本著はある会社の新人研修のリアルを、エスノグラフィーという手法を使って炙り出しています。ぜひ、ご自身が取り組まれている育成を見直すにあたっての鏡にしてもらい、これから新入社員を受け入れ育てていくにあたってのヒントにしてもらえれば幸いです。

インタビュー後記

本書やインタビューを通じて、これまでベンチャー企業から大手企業まで多くの新人研修に携わってきた立場から、過去の設計した研修や、これからのキャリア開発について問い直す機会になりました。

新人研修においては、階層別研修の中でも多くの予算と時間が投下され、短期間で「社会人としてのマインドセットを行う」「主体性を高める」といった高いハードルが課せられます。

一方で、実際には「“手を上げる=主体性”といった謎の評価基準」「時代齟齬、現場感も力量もない講師が正解になってしまう実態」「忘れさられるアクションプラン」等々、改善に向けて越えていく壁は多くあります。

「研修でどう行動変容を促していくか?」という論点ではなく、「現場にどのように配置して、どのような活躍を期待するか?」という論点から、これからの人材開発やキャリア開発を捉えていきたいですね。

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