大学キャリア教育 事例
大学低年次キャリア教育が就職活動や就業感へ与える影響とは? 関西大学キャリスタの事例から考える。
就活を終えた、低年次キャリア教育の受講生は今!?
2021年4月より関西大学様で実施している低年次キャリア教育プログラムは3期目を終え、1期目の受講者は卒業を間近に控えています。
本日は、就職活動を終えた関西大学4年生3名と共にプログラムの中身を振り返りながら、そこで得た経験が就職活動や今後の社会人生活に与えた影響を探っていこうと思います。(インタビュー対象者の方々の肩書きは、インタビュー当時のものになります)
関西大学で実施している低年次キャリア教育プログラムの内容は?
アクセンチュア、コクヨ、ワコールをはじめ業界をリードする企業と連携して行うキャリアスタートプログラム(通称:キャリスタ)。1・2 年次生を対象に、実践的な課題解決型学習(PBL)を通じて、自身のキャリア開発能力を醸成するとともに、マイテーマ(現在の興味)を問う自己変革型のアプローチで、学部教育での専門性を深化させることを目的にしている。
インタビュー対象者プロフィール
坂本氏:文学部を経て、大手文具メーカーに内定
古川氏:総合情報学部を経て、グローバル総合メーカーに内定
山本氏:社会学部を経て、大手インフラに内定
低年次キャリアプログラムの参加動機は就活への不安?
Q.まず初めに、低年次キャリア教育プログラムに参加したきっかけを教えてください。
古川:グループワークの経験と他の学生との交流を目的に参加しました。お知らせを見て、深く考えずひとまず参加してみようと思って!
山本:早めから就活に触れたいと思ったこと、人と関わりたいと思ったことがきっかけです。特に高校生までは関わることの少なかった社会人と低学年から関われることは大きな魅力でした。
坂本:大好きな文房具を扱うコクヨがプログラムに参画していたことが理由のひとつです。
また、就職活動において、何から始めればよいか知りたかったことも参加を後押ししました。
学生と社会人の違いに気づくことで、大学生活が変わる
Q.キャリスタは、体験プログラム・前期・後期の3部構成ですが、それぞれで印象に残っていることや学びはありますか?
坂本:体験プログラムでは、大学生活と社会人生活の違いについての言葉が印象に残っています。「大学までの進路選択は偏差値が指標になるが、社会人の進路選択では経験値が指標になる」と聞き、大学生のうちに経験値を養うことで社会人になっても困らないようにしたいと思いました。
また「勉強と学問の違い」というキーワードも印象に残っています。答えのない問いを持つことは、高校と大学の違いを認識するきっかけにもなりました。
前期のプログラムでは、興味のあることを探ったことが印象的でした。プログラム参加者に客観的に興味を言語化してもらうことで、「日々の学びを楽しみ続けるには?」という興味の軸ができ、学生生活の指針になりました。これが就職活動の軸にも直結したんです。
山本:私は前期のプログラムを受講したことによって、「働く」ことのイメージが変わりました。受講前は「働く=生活のためにお金を得る」と認識していましたが、プログラムを通して、「働く=価値を提供して対価を得る」ということを理解しました。これによって、地元に貢献したいという想いと価値提供が紐き、電力会社へ就職することに決めました。
古川:グループワークの中でメンバーに言われた何気ない一言がとても印象に残っています。その言葉は「追い込まれるのが好きだよね」というもので、自分のモチベーションが上がる時を知ることができました。これが自己理解なんだと実感しましたね。
P B Lにおけるシビアな評価がもたらす価値
Q.それでは、後期のPBL型のプログラムについてはいかがでしょうか?
山本:成果発表時のコクヨの山本さんの言葉が印象深いものでした。「みんな頑張ったけど、社会人は結果が重要視されるので、2位でも3位でも評価は同じ。だからこそ限られた時間の中で結果を出すことが大切。」という言葉を聞き、過程も評価してもらえた学生時代と社会人との違いを再認識しました。また、この経験を通して、父を始め社会人をより尊敬するようになりました。
そして、アイデアをまとめることに想像以上に苦労したことも印象深かったです。リーダーとして、メンバー間のモチベーションの差を、得意分野を見極めた役割分担にすることで乗り越えた際は、自分の成長を実感しました。
坂本:私のグループは、自分以外のメンバーが全員1学年下の男子学生だったので、仲を深めることが最初のハードルでした。また、グループメンバーにまとめる役割が得意な人がいなかったので、自分自身がリーダーをやりつつ書記も担ってまとめていきました。チームの中での立ち回り方を覚えていけたので、就活時のグループワーク等でも活かせる経験となりました。
また、最終成果発表の前にスライドの工夫や話し方など、伝え方の重要性や方法を細かく教わり、ゼミの発表や就活の面接時に活かす事ができました。
古川:最終発表で優勝できなかった時に、チームメンバーの1人が涙を流していたことが印象的でした。正直なところ、自分自身は涙を流す程悔しくはなかったので、もっと本気で取り組めたのではないかと反省しました。この経験をきっかけに、何事にも覚悟を持って取り組もうと思い、物事へ向き合う姿勢が変わりました。
その他、リーダー以外もリーダーシップを発揮するというキーワードも印象に残っています。前でも後ろでもなく、隣でチームメンバーに寄り添える人として、周囲のリーダーシップをどう引き出すかということに向き合えたことも学びになりました。
働くことをポジティブに捉えられるように
Q.プログラム参加を通して、働くことに対する捉え方に変化はありましたか?
古川:元々は働くことを、社会貢献をすること、人の役に立つことと捉えていましたが、自分起点の考え方もして良いことを学びました。自分の理想、自分の成長を追い求めて、その経験が社会貢献に繋がる側面がある事がわかりました。
坂本:私は、仕事には答えがあって、その答えに辿り着くために効率的に働くことが重要であると思っていましたが、そもそも答えがないということを知ることができました。高校までの学習には答えがありましたが、大学の学問には答えがなく最適解を探すものだったので、学問を追求することと働く事は似ていると気づき、学問に取り組むモチベーションになりました。
また、最適解を出すためには、チームビルディングなども重要で、顧客の課題解決と併せて自分が所属する組織の課題にも向き合っていく必要があることを実感しました。
低年次キャリア教育と就職活動
Q.就職活動にはどのように活きましたか?
山本:このプログラムに本気で取り組んだので、自信を持って頑張ったと言える経験となりました。その結果、面接でこの経験を話し、面接を通過する事ができました。
またチームで答えのない問に向き合う経験は、仕事と同じなので、社会人の予習が学生時代にできて良かったと思っています。この経験は、自分にとって楽しさが強かったので、社会人になる事が楽しみになり、就活も楽しめました。
その他にも、結果発表の講評で課題と解決策に因果関係がある点を評価してもらえたことで、人に伝える際に一貫性が重要だと学び、エントリーシートを書くときに筋が通る文章を作るように意識することができました。
古川:思考の幅と深さが広がりました。この思考力は、自己分析をするときも、面接でエピソードを話す時にも活きました。一人で就活対策をしていたら、ここまではできなったと思っています。
また、チームで成果を出す方法を考えられるようになりました。これは、就職先の企業でも重要視されていることなので、就活にも良い影響がありました。チームで成果を出すためには、どれだけチームメンバーや顧客、社会など周りのこと考えられるかが重要だと捉えています。これが、最終的に良い結果を出す事に繋がると思います。
坂本:私は、経験値が答えを導く指標になることを低学年のうちに実感したので、学生生活で沢山の経験をしました。これにより、就活で話すエピソードの引き出しが増えました。また、グループワークでアンケートを作ることなどの一つ一つの経験が論理的思考力等のスキルに繋がり、自分のできることを増やす事にもつながりました。
課題を解決して成果を出し、頼られる存在になる
Q.この経験を活かして、どのような社会人生活を送りたいですか?
山本:限られた時間の中で、成果を出すために、一つ一つの仕事に真剣に取り組みたいです。また、自分の想いだけではなく、チームとして世の中に価値提供をする事を大切にしたいです。個人的には、山本さんだからよかったよ!と言われるほど信頼される社会人になりたいです。
坂本:キャリスタで優勝できなかったからこそ、選ばれないと意味がない事を実感しました。内定先の企業はお客様に選ばれるために感情に働きかける事を大切にしているので、人の感情にポジティブな影響を与えたいです。またいろいろな事を経験して、どんなことでも頼られる存在でありたいと思っています。
古川:何事にも本気でぶつかって、チームで成果を出していきたいです。お客様とも本気で向き合って潜在的なニーズを引き出し、チームとして成果を出せるような営業マンになり、組織に貢献したいと考えています。
Q.最後に企画者である関西大学キャリアセンターの山口さんに、この学びをどのように今後の学内へ展開していきたいかをお伺いしたいと思います。
このプログラムを通して学びと社会の結びつきを深め続けていきたいです。残念ながら、大学での学びが社会でどのように活きるか認識していない学生が特に文系学部には多いと思います。「学びと社会の繋がりを意識することで、学問へより真剣に取り組み、社会で活躍できる学生を育てたい。」このプログラムを企画した当初からの想いが実現できたと今日のインタビューで実感しました。
このプログラムを続けていくためには、プログラムの成果を発信していく必要もあります。2021年度から始まったキャリスタでの学びをこのインタビューのように可視化していき、プログラムを長く継続していきたいです。
インタビュー後記
低年次キャリア教育が大学生活や働くことにポジティブな影響があったことを、これまで定量的な効果測定では認識しておりましたが、定性的なインタビューによって具体的な効果を言語化することで個人的にも非常に大きな学びがありました。
大学2年生の時に考えたマイテーマが、大学生活や就活の指針として残っていたことも非常に嬉しく思います。この就活対策と一線を引いたプログラムの中で、働くという先の未来がポジティブになることで将来への期待感を醸成したうえで、主体的な大学生活を後押しするきっかけと機会を提供することが低年次キャリア教育の価値になることを実感しております。
今後も、キャリアセンターや教員の方々、企業の方々と共に、この領域を探究していければと思います。このプログラムを育っていった学生が、社会人として活躍する姿をみれる日がくることを楽しみにしています。
Masanari Takahashi
高橋 政成
大学を卒業後、人事コンサルティング会社(株)シェイクへ入社。研修プログラム開発、コンサルティング営業として、100社以上の人材育成に携わる。トップセールスを達成した後、最年少マネジャーへ昇格。その後、既存事業と兼務で、大学向け教育の新規事業を立ち上げ。2016年、大学・採用・キャリア開発の領域から、新たな価値を創るためにOriginal Point株式会社を設立。