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「何が正しいか」ではなく「何が自分らしいか」——Original Pointが描く“本音に迫るキャリア支援”を現場レポート
情報があふれ、多様な選択肢が増えたからこそ、かえって「正解探し」に迷い込んでしまう学生たち。Original Pointがこのイベントで伝えたかったのは、そんなキャリア選択への固定観念を疑ってみる視点でした。
学生にとって、単なる「視野の広がり」を超えて「自分の“当たり前”が揺らぐ体験」を届けようと設計した、キャリア発見イベント「ハタチの選択」。
「大手に行っておけば安定?」「仕事にしたいことってどうしたら見つかるんだろう」……そんな漠然としたイメージを抱く就職活動前の大学1,2年生に対し、多様なキャリアを歩んできた人事7名が語りかけます。
選考では聞けないような企業側の本音や社会人の今だからこそ語れる経験談を聞くことで、参加学生からは「それぞれの業界に強みがあることを知った」「これまでの自分の選択肢になかった話を聞けた」などの声があがり、「働くこと」や「業界・企業」に対する見方の変化や、選択肢そのものが広がるといった前向きな変化が生まれていました。
「学生の“本当に知りたいこと”に寄り添い、本質的な対話の機会を創出したい」そんな価値観をもとに開催した「ハタチの選択」当日の様子をお届けします。
「働く」の本質に迫る
「仕事とは、単に時間を差し出すことではなく、価値を提供すること」。これは社会人として当たり前の感覚かもしれません。しかし、学生にとってはまだ実感を持ちにくい領域でもあります。
イベントのオープニングでは、学生と社会人の「働く」の違い、そして、イベントの主旨である「多くの将来の選択肢に出会うことの価値」が語られました。
アルバイトのように“時間を提供する”ことで報酬を得てきた学生にとって、社会人からの「働く」が “誰かに対して価値を提供する”という全く異なる構造だと知ることは大きな転換点になります。こうした視点を持つことで、学生は「自分はどんな価値を、誰に届けたいのか?」という就活の根幹にある問いに立ち返ることができるようになります。
その問いに向き合うために必要なのが、「社会理解」と「自己理解」。
今回のイベントでは、その中でも「社会理解」に重きを置き、多様な業界やキャリアを進んできた社会人の価値観に学生が触れられる機会をつくりました。会場では学生たちが随時、気になることを匿名形式で質問できるリアルタイムアンケートを導入し、本音に迫る環境を設計しました。
大手 or ベンチャーの枠の先にあるものとは?
まず最初の対談には、大手企業・サントリーホールディングス人事担当の笠井さんと、ベンチャー企業・バリュークリエーション株式会社人事担当の神代さんをお招きし、それぞれの立場から「働く環境」や「キャリア形成」について語っていただきました。
大手かベンチャー、選ぶべきは「自分に合う環境」
まず話題になったのは、「大手企業とベンチャー企業、それぞれの特徴や強みとは?」というテーマ。
サントリーの笠井さんは、大手企業の特性としてある仕事の種類の幅広さとキャリアの偶発性の高さに触れ、「“絶対にこの仕事がしたい”という強い想いを持っている方にとっては、ギャップを感じることもあるかもしれません」と語りました。
その上で、「『キャリアの8割は思っていなかったことが起こる』くらいの心構えでいると、柔軟に楽しめると思います」と、どのキャリアにも通じる重要な視点を教えてくれました。
一方で、ベンチャー企業で働く神代さんはご自身の経験をもとに、ベンチャーでは入社時に選べる職種や業務領域が限られる傾向にあるという実態を語りました。
しかし、成長や変化のスピードが速い環境であるため、自分の意志やアイデアがダイレクトに業務へ反映されやすい点が魅力だといいます。個人の姿勢や行動次第で得られる成果が大きく変わるため、自らチャンスをつかみにいく意欲のある人にとっては、大きな成長の機会となることを伝えてくれました。
「会社規模」では見えない成長環境
続いて、学生から多く寄せられたのが「大手企業は年功序列のイメージですが、実力があれば若手から責任ある仕事を任せていただけますか?」という、挑戦環境についての質問でした。
ベンチャーの神代さんは、次のようにご自身の実体験を話してくださいました。
「うちは完全に実力主義。年功序列という概念はなく、新卒3年目でマネージャーになる人もいます。結果を出せば先輩を抜いていくのも普通のことですし、やった分だけ成果として返ってきます。自分の力を早く試したい、成長スピードを重視したいという人には、ぴったりの環境だと思います。」
一方、大手の笠井さんも、若手が成長できる環境があると強調しました。
「大手=年功序列というイメージを持たれがちですが、成長できるかどうかは“会社の規模”ではなく“社風”によるところが大きいと思います。サントリーには“挑戦を絶対にやめない”という文化が根付いていて、若手であっても意志と行動次第でどんどんチャレンジできる風土があります。」と、企業の風土による成長環境を教えてくれました。また、社内でできる仕事の種類が豊富であることや海外に行く選択肢があるなど、大手だからこそできる成長の魅力についても語りました。
「大手・ベンチャー」といった枠組みに囚われるのではなく、それぞれの企業が何を大切にしているのか、自分は何を大事にしたいのか──。セッションを通じて、学生たちは「自分が働く上で何を重視するべきか」という問いを深める機会を得たようでした。
自分の興味を仕事にする上での向き合い方とは
このセッションでは、「エンタメvsソーシャル」という構造で、「興味を仕事にする上での向き合い方とは?」をテーマにフォーカスしました。
エンタメ側からはセガサミーホールディングス株式会社人事部門の池田さん、ソーシャル側からは京王電鉄株式会社人事部門から石塚さんに登壇いただきました。各業界がどのような価値を提供しているのか、また、仕事に対する向き合い方について、実際に現場で活躍されているお二人の視点から深く掘り下げました。
エンタメは“心に彩り”を、ソーシャルは“暮らしに温もり”を
まずはじめに石塚さんは、「エンタメとソーシャルの違いは、エンタメが物理的なコンテンツを提供する一方、ソーシャルは“場”や“機会”を提供します。」と教えてくれました。
また、池田さんは業界の価値について「エンタメは、衣食住や社会的インフラのように必須ではありませんが、生活や社会に彩りを加えることで価値を提供しています。人々に楽しさや感動を提供することがエンタメ業界の大きな役割です」と語りました。
エンタメ業界に勤める上で、成果が数字として見えやすい点にやりがいを感じていると教えてくれました。また、ユーザーから直接「楽しかった」「感動した」といった声が届くことも、この業界ならではの魅力だと語りました。
一方でソーシャル業界の石塚さんは、「現場での体験」や「人とのつながり」により実感が得られることを教えてくれました。また、成果が数値には表れにくいものの、人々の生活に寄り添い、地域の魅力を引き出せることに価値を感じると語りました。
好きを深める
セッション後半では学生から、好きなことを仕事にすることの良さやそのうえで必要な向き合い方は何かといった相談が寄せられました。
石塚さんは、好きなことを仕事にしたことで、自分の人生がより豊かになったと実感しているといいます。ただし、鉄道業界ではグループ会社への出向などもあり、必ずしも得意な仕事ばかりではないため、柔軟な意識を持ち続けることが大切だと語りました。
また、池田さんは語弊を招かないようにしたいとしながらも、「好きなことを100%仕事にできているわけではない」と本音を語りました。また、仕事と想いをつなげるヒントとして、なぜそれが好きなのかを掘り下げることで、視野や選択肢は広がっていくのだと教えてくれました。
“好き”を起点にキャリアを考える学生は少なくありませんが、それをそのまま職業に直結させるだけでは、期待と現実のギャップに直面することもあります。このセッションを通じて学生たちは、「なぜそれが好きなのか?」「その“好き”を通じて、誰にどんな価値を届けたいのか?」という問いに向き合うことの大切さを学んでいるようでした。
自分らしいキャリアの描き方とは?
最後のセッションでは、「自分らしいキャリアを歩む」というテーマについて、起業、転職、副業という異なる選択肢を選んだ社会人ゲスト3名をお招きし、それぞれの視点からキャリア形成について深く掘り下げました。
登壇いただいたのは起業経験者として株式会社スクールウィズの太田さん、転職経験者として株式会社リンクアンドモチベーションの藤川さん、副業経験者として霞ヶ関キャピタル株式会社の久保さんです。
セッション冒頭、学生に対して「起業・転職・副業、どのテーマに興味がありますか?」と尋ねたところ、「転職」や「副業」への関心はある一方、「起業」を視野に入れている学生は限られていました。また、「今、明確な夢がある人はいますか?」という問いに手を挙げたのは、ごくわずか。多くの学生が将来に対する具体的なビジョンを模索中であることが伺えました。
動き続ける人に、チャンスはやってくる
まずは現在のキャリア選択に至った経緯について、それぞれに伺いました。
最初に語ってくださったのは、起業家の太田さん。 世の中を変える挑戦をしたい、より社会に大きな影響を与えていきたいという想いから、起業という選択をしたといいます。また、「日常の“不便さ”や“こうだったらいいのに”という感覚を見過ごさない人や、パッションをもって行動できる人は起業家に向いている」と、教えてくれました。
実は、大学時代のインターンがきっかけだったという太田さん。仲間と参加したビジネスコンテストを通して、起業の世界に惹かれていったといいます。
「現時点で夢が見つかっていなくても大丈夫。でも、“夢を見つける努力”をし続けることと、それを叶えるための“経験値を積むこと”、この両方が大事です。」と力強く語りました。
キャリア選択に正解はいらない
転職経験のある藤川さんは、ご自身の実体験からこれまでのキャリアを語ってくれました。もともとは転職を考えていなかったものの、社会人3年目で体調を崩したことが大きな転機となり、自分の働き方や価値観を見直す機会になったといいます。
その過程で、「自分は何に心を燃やしたいのか」という問いに向き合い、最終的に転職を決断したことを教えてくれました。また、藤川さんは、転職を“キャリアを見直す中での一つの選択肢”として捉えており、無理に選ぶものではないが、自分の働き方に違和感を覚えたときには大切な視点になると語りました。
一方、副業を選んだ久保さんは、当時「転職はハードルが高かった」と振り返ります。だからこそ、いきなり環境を大きく変えるのではなく、自分にできることから少しずつ始めようと、副業にチャレンジしたそうです。
現在はコーチングを副業として行っており、本業であるホテルブランディングの仕事とも自然に結びついているとのことでした。どちらも自分の興味や強みを活かせる領域であり、両方の軸を持つことで、より自分らしいキャリアを築けていると話しました。
今回のセッションを通して学生たちが感じたのは、“キャリアには正解がない”ということ。起業・転職・副業──それぞれの働き方の背景には、葛藤や挑戦、そして明確な意志がありました。また、そのために、どんな環境で、どんな働き方をして、何を大切にしていきたいのかを考えることが、これからのキャリア選択の鍵になります。
この対談は、学生たちにとって、 “自分らしいキャリア”とは何か──内定を獲得することだけではない、その一歩先にある「キャリア」という新たな視点と向き合うきっかけとなったようです。
参加した学生の声
本イベントを通じて、学生たちに最も大きな変化が見られたのは、「働くこと」や「キャリア」に対する視野の広がりでした。
「《 働く = お金を稼ぐこと 》だと考えていたが、それよりも自分のやりたいことについて考えて、どのような人生を歩みたいのかを軸にして考えていこうと思った」「色々な働き方があるということを知り、自分のやりたいことや自分が納得出来る仕事をしたい」などといった学生の声から、“働くこと”への漠然とした認識が自分ごとになり、キャリアをより主体的に、“自分の人生の一部”として考えるようになった様子がうかがえました。
また、大手とベンチャー、ソーシャルとエンタメといった対比的なテーマから、異なる業界や企業の価値や強みを知ることでの気づきも生まれたようでした。
「これまで避けてきたベンチャー企業やエンタメ業界について、今日のイベントを通して知らないことばかりだったと感じ、もっとアンテナを張っていきたいと考えました」「自分のやりたいこと、実現したいことなどを分析して、それらに合った場所を見つけることが大切だと学んだ」など、選択肢を広げる重要性を感じたとの声も寄せられました。
イベント直後には社会人に積極的に質問を行う学生も多くおり、本格的に始まる就職活動に向け、より広い視点を持ちながら自分らしい一歩を踏み出す準備が整ったように見受けられました。
編集後記
新学期を目前に控えた春休みのタイミングにも関わらず、これだけ多くの大学1・2年生が自分の将来に向き合うために足を運んでくれたことを、心から嬉しく思います。
不安げな表情で会場にやってきた学生たちが、メモを取りながら真剣に耳を傾け、自ら社会人に質問を投げかける姿。そして、そんな彼らが徐々に晴れやかな眼差しへと変わっていく様子を目の当たりにし、このイベントの価値をあらためて実感しました。
今回の「ハタチの選択」では、企業の名前や業界のイメージといった表面的な情報ではなく、社会で働く少し先の大人たちの“リアルな声”に触れることで、「自分にとっての働き方とは何か」「自分らしい選択とは何か」を考えるきっかけとなる場を目指しました。
決まった正解があるわけではないからこそ、キャリアの多様性に触れ、それぞれが“自分の軸”を見つける第一歩になっていればと思います。
就職活動の早期化が進む今、企業にとって学生との接点の持ち方は、ますます重要なテーマになっていくでしょう。情報があふれる時代だからこそ、ただ“伝える”だけではなく、学生にとって意味ある体験や気づきを提供できるかどうかが、これからの人材獲得の鍵になるのかもしれません。
Original Pointでは、これからも「学生が自分らしく社会とつながるためのきっかけ」を、企業・大学・社会人とともに創っていきたいと考えています。就職活動という枠を越えて、学生たちが「自分の可能性を信じられる」瞬間を共につくっていける皆さまと、今後ご一緒できることを楽しみにしています。
撮影:范延洋
Masanari Takahashi
高橋 政成
大学を卒業後、人事コンサルティング会社(株)シェイクへ入社。研修プログラム開発、コンサルティング営業として、100社以上の人材育成に携わる。トップセールスを達成した後、最年少マネジャーへ昇格。その後、既存事業と兼務で、大学向け教育の新規事業を立ち上げ。2016年、大学・採用・キャリア開発の領域から、新たな価値を創るためにOriginal Point株式会社を設立。