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【大学キャリア教育の会議 vol.1-2】〜今を見直し、未来を考える〜 企業と大学が語る、これからのキャリア教育の理想とは?

就職活動の早期化、AIの進化、価値観の多様化。学生を取り巻くキャリア環境は、かつてないスピードで変化しています。こうした変化の中で、大学のキャリア教育は、単なる“就職支援”を超えた、より本質的な役割を担いはじめているように感じます。

本記事では、Original Point代表の高橋氏が、大手総合文具メーカーで10年以上採用を担当された山本氏、そして成城大学キャリアセンター課長の長尾氏を招き、「本当に育てたい力」「大学はどこまで支えるべきか」等をテーマに、変化の時代における大学キャリア教育の理想について語り合った対談の内容をお届けします。

第1部:元大手採用担当者が語る、大学キャリア教育への期待

「就活の早期化」と「業界構造の変化」。この二つの大きな波の中で、学生たちはどのような軸をもって自身のキャリアを描けば良いのでしょうか。第1部では、大手総合文具メーカーで10年以上採用に携わってきた山本氏から、企業視点での学生の変化と、大学教育への期待についてお話を伺いました。

山本氏は、採用現場のリアルな声として、次のように語ります。

「就職活動は早期化・長期化が進み、スタート時期の線引きが曖昧になっています。企業が重視するのは、特定のスキルよりも、むしろ“どんな状況にも順応できる姿勢”といったスタンス面です。」

こうした現状に対し、高橋氏は「学生が“ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)”を戦略的に作るようになっている」と指摘します。それに対し山本氏は、「何もやらないよりは、取り組んだ方が良い」としつつも、経験の深さと、そこから得られる「再現性のある力」を強調されます。その鍵となるのは、「なぜ・どのように・なんのために」という問いを掘り下げることです。

「例えばアルバイト経験でも、“なぜそれをやったのか”“どう工夫したのか”を問い直すことで、目的意識を伴った経験へと変わります。単に『カフェで〇〇を頑張りました』というだけでなく、なぜその目標を設定し、どのような思考プロセスで、どのような手段を用いて達成しようとしたのか。その過程を深く掘り下げることで、単なる活動経験が、応用可能な力へと昇華します。就職活動は『正しさを証明する場』ではなく、『自分の可能性を確かめる場』として捉えることが大切です。」

学生が“就職”をゴールとしてだけでなく、“キャリアを考えるきっかけ”として前向きに捉えられるよう、大学がその思考を支援していくこと。ここに、これからのキャリア教育の役割が見えてくるように感じます。

業界構造が変化する時代に求められる「社会理解」

「AmazonはIT企業なのか、物流企業なのか?」この問いが象徴するように、業界の境界は曖昧になり、企業は“提供価値”を軸に新たな領域を開拓しています。

「だからこそ、学生は“どの業界に入りたいか”ではなく、“自分が社会にどんな価値を届けたいのか”を考える必要があります」と高橋氏は語ります。さらに山本氏は、次のように続けました。

「志望動機は“企業に好かれるためのもの”ではなく、“自分起点のキャリアビジョン”と企業の提供価値が重なる部分を言葉にすることが大切です。第1志望である必要はありません。大事なのは、“なぜ働くのか”という軸を自分で持っているかどうかです。」

業界を超えて共通する“価値”を見出す力。提供価値を起点に、社会をどう理解し、将来を見据え、自分の価値をどのように重ねていくのか。それは、変化の時代においてキャリア教育が学生に伝えるべき、新しい視点と言えるのではないでしょうか。

第2部:大学キャリア教育の本質――「学びの出口」を見通す教育へ

第2部では、リーマンショックやパンデミックといった激動の時代を乗り越え、大学生のキャリア観に大きな影響を与えたこの20年を、キャリア教育の立ち上げ期から現在まで見守ってこられた成城大学キャリアセンター課長の長尾氏にお話を伺いました。

長尾氏は、キャリア教育の根幹について、「キャリア教育の目的やゴールは、やはり『社会的・職業的自立』に向けていくことだと考えています」と、その重要性を改めて語ってくださいました。しかし、現代の複雑化する社会情勢を踏まえ、その視点はさらに拡張されています。

「単に就職するためだけではなく、社会的・職業的自立を土台としながらも、人生を豊かに生きていくための力をつけていく。これこそが、今、まさにタイムリーなキャリア教育として考えなければならないことではないでしょうか。」

AI技術の急速な進展、多様化する働き方、そして個々の価値観の尊重といった、現代ならではの課題に直面する中で、大学教育が果たすべき役割は、学生たちがこれらの変化に柔軟に対応し、自分らしく生きていくための基盤を提供することにあると、長尾氏は説きます。

そして、大学教育とキャリア教育の関係性について、長尾氏は「大学教育そのものがキャリア教育なんじゃないかと言っても過言ではない」と、両者の密接なつながりを指摘します。

「キャリア発達の過程にある大学生たちが、様々なものに触れ、吸収し、そしてアウトプットを繰り返していく。その活動そのものが、たとえ専門科目であっても、キャリア発達に大いに寄与するのです。」

この言葉は、学問の探究がキャリア形成と切り離せないものであることを示唆しています。自身の専門分野を深く掘り下げることも、自分のキャリアを切り拓いていくことも、本質的には一つの統合されたプロセスと言えるのかもしれません。大学は、学生たちが学んだ専門知識を、どのように社会に還元し、あるいは変化し続ける働き方へと繋げていくのかを、主体的に考え、実践するための大切な土台を提供してくれる場所なのです。

第3部:三者が語る、“学問とキャリア教育の好循環”とは?

第3部となる高橋氏、山本氏、長尾氏の三者による対談では、「学生が“答えのない問い”に挑むとき、大学はどんな伴走ができるか」をテーマに語られました。

「社会に出れば挑戦や失敗の機会は限られます。だからこそ、大学時代に挑戦してほしい」と長尾氏は語ります。そして、ゼミやPBL(課題解決型学習)を通じて、正解のない問いに向き合う過程そのものが、社会と学問をつなぐ訓練になると続けます。

山本氏は、「大学の中の経験と外の経験を往復することが重要」と語った上で、「外で得た経験を大学に持ち帰り、内省する。この“中と外の往復”を支援するのが大学職員の役割ではないか」と提起します。

「企業がリアルな課題を提示し、大学が理論的背景や問いの文脈を与える。その両者が並走する中で、学生が社会と接続し、自分なりの意味を見出していく。そうした“共創型のキャリア教育”が理想です。」

現場での実践(外)と、大学での内省(内)を行き来する循環が、学びを“自分の言葉”へと変えていくのではないかと語られました。さらに長尾氏は、「一人ひとりの専門的な学びが社会課題と結びつき、企業・地域と新たな価値を生み出すことが、やがて日本全体の成長にもつながるはず」と、大学における学びの意味を唱えました。

動画で見る:大学キャリア教育のこれから

この記事では語り尽くせなかった、大学キャリア教育の未来を形作る熱い対談を、ぜひ動画でご覧ください。特に、元大学職員のリアルな声や、成城大学キャリアセンター課長の長尾氏の情熱的な想いが詰まった「After Talk」は必見です。変化の時代におけるキャリア教育のヒントが、きっと見つかるはずです。

 

対談動画を視聴する

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    【対談動画】企業と大学が語る、これからのキャリア教育の理想とは?大学キャリア教育カイギ vol.01-02

    編集後記

    「キャリア教育は、学生と共に問いを育てていく営み」。今回の対談で印象的だったのは、大学も企業も同じ目線で“成長の伴走者”になろうとする姿勢でした。

    学生が社会に出る前に必要なのは、知識や専門スキルだけではありません。自ら問いを立てて考える力、社会を多面的に理解する力、そして挑戦と内省を繰り返しながら学びを自分の言葉にしていく力。その3つの循環を支える存在こそ、大学職員であり、大学という場なのだと改めて感じます。私たちも、大学・企業と共に共創型のキャリア教育を推進し、その実践を通じてこれからのキャリア教育のモデルを育てていきたいと思います。


    企画・編集:Original Point株式会社
    出演:成城大学キャリアセンター課長 長尾氏/大手総合文具メーカー 元採用責任者 山本氏/Original Point代表 高橋

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