大学キャリア教育 事例
知らないものは、選べない。NPO法人JUKEが取り組むキャリア支援プログラムとは? ~ジョブシャドウイングの可能性について考える~
高度経済成長の終焉や震災の影響、マルチステージの人生設計などの時代背景により、仕事観・職業観も年々変化してきている昨今。
これから社会に出ていく学生たちの仕事に対する価値観も、おカネの為に働くというよりかは、自己実現の為の手段に変化してきています。
今回は、弊社でも注目しているジョブシャドウイングプログラムを、約8年前から実施し続けているNPO法人JUKEで理事長をされている古川秀さんと前事務局長の田中志樹さんと一緒に、ジョブシャドウイングの可能性とともに、学生に必要なキャリア支援について考えていきたいと思います。
NPO法人JUKEが目指す世界観とは?
―「誰もが、あたり前にキャリアについて考え続けることが出来る世界」をVISION に活動されているかと思いますが、NPO法人JUKEさんの立ち上げ背景を教えてください。
(古川さん)JUKEの創業者に佐藤優介という者がいます。彼は、学生の頃からキャリアの研究に取り組み、理想的なキャリア論を一通り勉強していたのですが、社会人になり実態を見てみると、個々に理想とのズレが起きている感覚があったそうです。
その背景には、社会人になる前に自分の理想を考えたり、これから生きていく環境の現実社会はどうなっているのかを知ったりするという準備が重要なのに、就活という短期間でしかできていない。「こんな状況じゃ、ズレが起きるのは当たり前。このギャップを埋めていきたい。」ということで創立されたのがきっかけです。
JUKEという名前は、“19歳”からのキャリア教育からきているんですよ。キャリアは大学1年生のときから考え始めていくべきだ、という考え方の表れですね。
―ありがとうございます。具体的には、どのような活動をされているのでしょうか?
(古川さん)活動の中での重要なミッションは、「問いと対話の機会の創出」「学生のキャリア支援をするカタライザーを増やす、多様性を実現する」だと考えていて、このミッションを達成するための具体的な手法として、パネルディスカッション形式のセミナーとジョブシャドウイングをやってきたという形です。
(田中さん)特に「問いと対話の機会の創出」って、いきなり「話そうぜ!」といっても誰も参加してくれないので、セミナーやジョブシャドウイングをしています。
「問いと対話」は、“いいね”で終わらず、そこからディスカッションが生まれていくという感じですね。JUKE内でもインターン生が留学に行くときとか、「何で行くの?」「何しに行くの?」っていう問いが投げられるんですけど、個のキャリアを考える時もインタラクティブな会話って絶対必要なんですよね。そういう場をつくっていくのが、私たちがやりたいことです。
設立から8年、活動からみえてきたこれからの時代におけるキャリア支援のポイント
―これまでの活動を通してみえてきたことはありますか?
(古川さん)キーポイントは、教育に対する市民の参加ですね!やっぱり、生き方の多様性を早期に提示していくことが大事だと思っています。今って「偏差値」「いい大学」「三流校」という言葉があるように、枠にはめられて教育を受けていると思うんですけど、枠無しに、自己実現の仕方の多様性を提示していきたいですね。
そうしたときに大事なのが「教育に対する市民参加」であり、多様な生き方をあまり知らずになっている人が多い教師にはできないことだと思っています。
JUKEでは、市民のことを“カタライザー”と呼んでいて、それぞれのカタライザーの方が持っているオリジナルな生き方それこそが、多様性の提示につながっていると考えています。
―まさに、どの市民でも学生たちのロールモデルになっていきますね。
(田中さん)そうですね。昔は多様性の提示とかも、地域社会コミュニティが担っていたんですけど、今は地域社会の関わりも薄くなっていますもんね。だからこそ、JUKEのような理念に共感して集まるコミュニティから、しっかり提示していきたいですね。
―市民から企業に視点を変えてお聞きしたいのですが、ジョブシャドウイングのように産学連携でキャリア教育行うことの意義って何でしょう?
(古川さん)学生視点からの良さからいくと、職場ってすごくプラクティカルでリアルな場所なので、その場に入ることがまさに価値ですよね。学校に来てくれた社会人の話を聞いて自分の想像でモヤモヤと話を聞くよりも、リアルな場に行くのが一番早い。
会社説明会があまり機能しておらず「よくわからない」という感想があるのは、リアル感がないし、自分の想像だけで理解できる仕事の範囲が少ないからですよね。実際に行ってみてわかる言外のメッセージを多く得られるのは、本当に良い点だと思います。
企業側にとっても、この言外のメッセージを伝えられるというのは、採用の文脈から長期目線で見るとかなりのメリットのはずで…
風土・雰囲気の合う合わないって誰にでもあるものだと思うので、それをしっかり学生に伝えられて判断してもらえるのは、入社後にも好影響ですよね。
―ともすると、学生を受け入れることに企業側は負担感を感じてしまうかと思うのですが、企業にとってのメリットって何だと考えていますか?
(古川さん)僕らがよく企業から聞くのは、自社を客観視できる機会や、個人として社員が自分のキャリアに向き合う機会になるということですかね。
JUKEのジョブシャドウイングプログラムは、事前学習で学生が訪問する企業のビジネスモデルキャンバスをつくって、そこから質問を考えて参加しているので、考えが自然と整理されたり、当たり前を見つめ直したり、深く考える機会になるようです。
しかもこの機会は、説明会とか1dayインターンのように用意したものに対しての感想をもらうのではなく、ありのままの姿を見せた上でもらう感想なので、これも勉強になるようです。
合コンでの印象が良くても、丸1日デートしたらやっぱり違った!ということってあるじゃないですか。仕事を選択する場面においても、リアルな姿を見るって必要なことだと思います。
―わかりやすい例え!(笑)たしかにそうですね。
(田中さん)このジョブシャドウイングって企業のスタンスを表すことになると思います。昨今のグローバルのトレンドでも、オープンな会社であることを社会に対して発信していくことって重要になってきているんですよね。
隔絶した空間にいるとあたかも自分たちだけで仕事をしているように錯覚してしまいがちですが、個人もそうであるように、企業も社会に生かされている。そうしたときに、このジョブシャドウイングは、社会とのつながりを感じたりや自分たちの会社のことを社会に発信するいい機会だと思っています。
インタビュー後記:市民を巻き込んだキャリア支援をNPOと企業で。
”知らないものは、選べないから。” JUKEさんのHPを訪れると、こんな文章が目に留まります。
弊社もジョブシャドウイング映像において“ケーキ屋さんになりたい小学生はいるけど、コンサルタントになりたい小学生はいない。”というメッセージ打ち出しています。ここから伝えていきたいことは、選択肢に触れる機会が必要だということです。
企業とNPOという立ち位置は異なりますが、目指すものは一致しているからこそ、新たなキャリア教育の価値を創っていきたいと思います。
Mizuki Muraoka
村岡 瑞妃
大学卒業後、1年間東京都の小学校教員として担任を務める。その後、エン・ジャパン(株)に転職し企業の採用支援や評価・教育研修サービスの提案営業を行う。現在は、Original Pointへ参画し、大学キャリア教育や新卒採用領域の事業推進に携わっている。