大学キャリア教育 事例
知識学習から経験学習へ!リアルなビジネスシーンを体感する産学連携PBLのポイントとは?
昨今、キャリア教育への関心が高まる中で、インターンシップやPBL(Project Based Learning)等の産学連携によるキャリア教育や専門教育の実質化が求められています。
しかし、教育効果や企業メリット等の質的課題を抱えたままの実施も散見され、まだまだ改善の余地があるのが現状ではないでしょうか?
本日は、弊社(Original Point)も社会と大学における学びの橋渡しを担当させていただいた、「関西大学×コクヨ株式会社」の事例を踏まえて、本プログラムのご担当をされている関西大学の森先生と一緒に、産学連携PBLにおけるポイントを考えていきます。
関西大学 人間健康学部 教授 森 仁志先生
専門は、文化人類学
著書『越境の野球史―日米スポーツ交流とハワイ日系二世』『アメリカ文化事典』
『現代人にとって健康とはなにか―からだ、こころ、くらしを豊かに』等
現場主義から生まれた関西大学×コクヨ(株)のPBL
―はじめに、森先生のご専門と、学生の学びを深めるにあたってゼミで大切していることを教えてください。
私の専門は文化人類学です。近年アメリカのIDEOなどの会社が、文化人類学的なフィールドワークを行い、ユーザーの課題や潜在ニーズの発見をイノベーションの出発点としていますが、私のゼミでもここからヒントを得て、「現場主義」を大切にした授業を展開しています。
例えば、何か問題を解決したくても、頭の中で考えているだけでは机上の空論に終わってしまう可能性あります。
ですので、ゼミではまず現場を出発点にして、そこで問題の本質を見極めて、それからその課題解決のためのアイデアを練ってカタチにしていく、デザイン思考のプロセスを実践的に身につけてもらうようにしています。
―まさに、今回の産学連携PBLの礎となる部分ですね。このコクヨ(株)との一連のPBLは、どのようなきっかけで取り組み始めたのでしょう?
それこそ、学生のニーズを現場主義で聞いていったことがきっかけです。
この人間健康学部は、2010年に新設された比較的新しい学部で、私は開設と同時に着任したのですが、学生が何を学びたいのかについて、授業の内外でコミュニケーションをとっていると、「 “社会とのつながり”を実感できるような実践的な学び」を求めていることがわかりました。そのため、現場主義的なデザイン思考のゼミをまず始めるようになりました。
ただ、やはり学生たちは、社会の中で発見した課題やニーズを踏まえてアイデアを考えていくと、自分たちの提案するアイデアが社会で通用するのかを知りたくなるんですよね。
そこで、企業とのPBL型の授業を模索していたのですが、たまたまゼミの4年生が内定をいただいていたコクヨさんの人事の方と運よく出会い、学生の望みが実現したという流れです。
関西大学×コクヨ(株)産学連携型PBL 概要
お題:これからの大学講義室のあるべき姿を実現する家具/ツールの商品企画
期間:2ヶ月
参加学生人数:33名/8グループ(3ゼミ合同企画)
―本年度、実施されての感想や手応えはいかがでしたか?
学生たちは、やはり舞台があると燃えますし、大きく成長してくれますね。特にコクヨの皆さんは、本当に学生たちに真摯に向き合ってくださるので、ありがたい限りです。
最初に、企画を提案するにあたって押えるべきポイント、中間発表でのフィードバック、そして最終発表会では評価項目ごとに得点化して優勝チームの発表という流れのなかで、社会人の視点を学生は体感していました。
やはり、社会の第一線で活躍される方からフィードバックをもらえる機会はそうそうないので、チーム間のライバル意識も生まれ、研究室へ連日やってきて企画を練るなど、教員として学生の頑張りに感心させられました。
また、学生たちは頭の中だけで考えていても将来のキャリアは定まらないので、これもやはり現場主義で、仕事を疑似体験する経験が、将来の方向性を具体的に考えるきっかけになったと思います。
産学連携PBLを遂行する際のポイント
―「現場主義」ということで、産学連携PBLを行うにあたって、大切にされているポイントはありますか?
一言でいうと、産学連携PBLを行う際には、「実は自分が学んでいる学問は、自分のキャリアにとって、便利なツールや武器になりえる」ということを実感してもらうことが大切だと思っています。
フィールドワークを行うにしても、地域の問題や消費者のニーズを発見して終わりではなく、それを踏まえてアイデアを練って企画を提案したりアクションを起こしたりする。
こういうところまでをワンセットで行うことで、フィールドワークという学問的な道具が自分のキャリアや実際の課題解決に役に立つのだと、学生たちに感じてもらえるようにデザインしていますね。
―たしかに。今回もワンセットでの取り組みでしたね。
ただ実は、必ずしも学問がすぐに実学的に役に立たなければならないとは考えていないんです。すぐに役立つ部分もあるけど、役立たない部分もある。でも、より長いスパンの人生という中で、豊かに生きていくためのヒントがあるということはそれとなく問いかけてはいるつもりです。
例えば、フィールドワークで他者と出会う中で自分の価値観を揺さぶられる経験とか、あるいは、役に立つ、役に立たないという軸からのみ学問をみるのではなく、学ぶこと自体の楽しさを知ることも人生をより豊かにしてくれると考えています。
―今回、弊社もご支援させていただき、企業の新人研修でも扱われる「大学と社会人の違い」「PJTの進め方」等を実施させていただきましたが、いかがだったでしょうか?
キックオフで、学生たちにとても響いた言葉があったんです。それが、「配慮と遠慮は違う」だったのですが、これがPBLを進める中での各チームにとって一番大きなテーマ、課題だったように思います。
チームが機能するかどうかで、当然提案するアイデアの質も変わってくるのですが、最近の学生は優しくて互いに気を遣い過ぎて、遠慮して何も言い合えないような傾向もみられます。
そうした中で、遠慮して何も言わないのではなく、配慮しながらコミュニケーションをとることの重要性についてしっかりと伝えていただけたのは本当によかったと思います。
―我々としては、短時間で学びを吸収する内省力の高さに驚かされました。
ありがとうございます。ただもちろん、学生たちは頭でわかっていてもそれがすぐにできるわけではなくて… その意味でも、しっかりとプロジェクト後に振り返りのワークショップをしていただけたのも効果的でした。
ただお題を与えるだけではなく、プロジェクトの進め方とその振り返りも含めてPBLをデザインすることも非常に重要ですね。
振り返りでの相互フィードバックでは、プロジェクトの中で、「自分はもっとこうできたのではないか」あるいは、「実はもっとこうしてほしかった」ということを本音で伝え合っていて、そうした経験と振り返りの繰り返しを意識的に行うことにより、「遠慮と配慮の違いを意識したコミュニケーション」を体現できるようになっていくのではないかと学生たちの様子をみながら実感しました。
―ともすると、産学連携PBLは企業側も大学側も負担感を感じてしまうことになると思うのですが、それぞれにおけるメリットって何だと考えていますか?
大学側のメリットから言うと「学ぶことへのモチベーションは、自らの体験を通じてしか育たない」というのは教育でよく言われることなのですが、産学連携PBLは、学生たちの学びへの意欲を効果的にあげてくれる仕掛けだと思います。
企業側のメリットについては、学生と企業のミスマッチを防ぐという効果があるのではないでしょうか。実際にコクヨさんとPBLをやると、学生たちは就活でも関心をもってエントリーをするのですが、WEBなどの表面的な情報を読んだだけの企業よりも確信をもって志望していますね。そのため、入社後のミスマッチを効果的に防ぐことができると考えています。
大学と社会をつなぐ!?産学連携PBLの可能性
―最後に、産学連携という文脈で今後取り組んでみたいことがあれば教えて下さい。
学生たちには、産学連携のPBL型授業へのニーズはあるんです。ただ、大学側がそれに見合うだけの機会を提供できていないという現状があるので、もし可能であれば、組織的に持続可能な形で企業と大学が連携していけたらいいですね。
一方で、大学での学びや研究内容と、企業の事業内容が完全に一致してしまえば、大学だからこそ生み出せることが無くなってしまうので、大学を開きつつも、社会からずれたり閉じたりする部分も残しておくことも重要だと思っています。
そして、そうした大学と社会の重なりとずれのなかから新たなアイデアや価値観が生み出されていくのを大切にしていきたいと思っています。
企業からみた産学連携の可能性
最後に、本プログラムの企業側であるコクヨ株式会社のご担当者、HR部 新卒採用担当 山本浩貴さんにも産学連携についてインタビューさせていただきました。
―今回、プログラム実施にあたって大切にしたことは何でしょうか?
当たり前のことですが、PBLは企業都合が色濃く反映されてしまうと、学生の成長機会を失う可能性が高いです。
私も採用担当者なので、結果的にはコクヨを知り、コクヨをキャリアの選択肢の一つとして考えてもらえると嬉しいのですが、それは我々都合ですよね。
だからこそ、「PBLを通じて学生に期待する成長と、プロジェクトの中での段階的な学び」を大切にして設計しました。
また、プロジェクトの中では、いい意味で学生の皆さんをお客様扱いせず「本気で課題に取り組むコクヨの仲間」として向き合っていました。そのスタンスが、時には我々からの厳しいコメントにもつながってしまいましたね(笑)。
ただ、結果的に自分たちの現状と、社会レベルで求められる理想とのギャップを知ることで、成長に繋がっていればと思います。
―確実に成長に繋がっていると思います。もう一つ、企業として感じる、産学連携の意義を教えていただきたいです。
今回のテーマは商品企画でしたが、実際に企画に至るまでのプロセスや商品の企画自体も、ユーザーである学生本人の目線で提案いただけたことで、我々も唸る内容がたくさんありました。加えて、数多くのフィールドワークを実施いただいたことは、我々の想像以上で驚かされましたね。
本当に商品化を目指せるものもあり、企業にとっての意義は確かにあると感じます。
ただそれ以上に、プロジェクトを通じて学生と企業が本気で対峙する中で、学生同士でも本気で課題やチームと向き合っていたことに、価値があると感じています。
「遠慮と配慮」のお話もありましたが、PBLに全力で臨んだからこそ、自分に出来ることや苦手なことを認識し、それを集団の中で活かす方法やフォローしてもらう方法を学んでいただけた印象があります。
この機会を通じて、学生さん自身が今後「どう在りたいのか」を考えるきっかけとなれば、結果として社会人として活躍する為の気付きが生まれて、社会への還元になる。これこそが産学連携の意義だと思っています。
そのフィールドが、コクヨであればなお嬉しいですね。
(コクヨ株式会社 HR部 新卒採用担当 山本浩貴さん)
Mizuki Muraoka
村岡 瑞妃
大学卒業後、1年間東京都の小学校教員として担任を務める。その後、エン・ジャパン(株)に転職し企業の採用支援や評価・教育研修サービスの提案営業を行う。現在は、Original Pointへ参画し、大学キャリア教育や新卒採用領域の事業推進に携わっている。